一人会社のログイン情報は、思った以上に多くなります。ネットバンキング、法人カード、会計ソフト、e-Tax、レンタルサーバー、ドメイン、取引先とのやり取りに使うメール。どれか一つが破られると、お金や信用に直結するものばかりです。
私も事業用のログイン情報は1Passwordにまとめています。セキュリティに割ける時間が少ないなら、まずここから手をつけるのがいちばん効くと思っています。この記事では、「全部預けて本当に大丈夫なのか」を、1Passwordの公式資料に書かれている仕組みから確かめていきます。
この記事の要点
- 1Passwordに保存したデータは、自分の端末の中で暗号化されてから送られます。運営会社はアカウントパスワードもSecret Keyも持っていないので、中身を読めません。
- 鍵は「自分が覚えるアカウントパスワード」と「端末で作られる34文字のSecret Key」の2つを組み合わせて作られます。サーバーの情報が盗まれても、それだけでは解読できない作りです。
- ログインのときもパスワードそのものは送られません(SRPという方式)。
- Watchtowerで使い回しや流出したパスワードを見つけられ、パスキーや二段階認証のコードもまとめて管理できます。
そもそも、なぜパスワード管理から始めるのか
IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第4.0版は、規模に関わらずやってほしい基本対策を「情報セキュリティ6か条」としてまとめていて、その3つ目が「パスワードを強化しよう!」です。
パスワードを強くするというのは、長くて推測されにくいものを、サービスごとに別々に使うということです。覚えて回すのは無理があるので、そこをパスワード管理アプリに任せます。一度入れてしまえば、あとはふだんのログインのついでに対策が進んでいくのが、忙しい一人社長には向いているところです。
中身が運営会社にも見えない仕組み
「パスワードを全部預けて大丈夫なのか」という不安には、1Passwordのセキュリティの解説(ホワイトペーパー「1Password Security Design」)がそのまま答えになっています。

エンドツーエンド暗号化
ホワイトペーパーによると、暗号化に使う鍵はすべて利用者の端末で作られ、暗号化も端末の中で行われます。1Passwordのサーバーに届くのは、すでに暗号化されたデータだけです。保管庫の中身は、256ビットの鍵を使うAESという方式(GCMモード)で暗号化されています。
通信の途中でも、暗号化済みのデータをさらにTLSと1Password独自の暗号化で包んで送っていると説明されています。
アカウントパスワードとSecret Keyの2つで鍵を作る
1Passwordを開くときに入力するのはアカウントパスワードですが、実際の鍵はもうひとつの秘密と組み合わせて作られています。それがSecret Keyです。
- Secret Keyは34文字の英数字で、アカウントを作った端末の中で生成されます
- 運営会社は記録を持っておらず、復元もできません
- 一度ログインした端末と、「Emergency Kit」というPDFに保存されます
ホワイトペーパーではこれを「two-secret key derivation(2SKD)」と呼んでいます。人が覚えるパスワードはどうしても強さに限りがあり、公式のサポートページでは平均で約40ビット程度とされています。Secret Keyは覚える必要がないので128ビットの強さがあり、総当たりで当てるのは現実的ではありません。
この仕組みのおかげで、仮に1Passwordのサーバーからデータが盗まれても、Secret Keyがなければパスワードを当てる攻撃そのものが成り立たない、というのが公式の説明です。アカウントパスワードは、PBKDF2という方式で何十万回も計算を重ねて、推測しにくくしてから使われています。
裏返すと、Secret Keyをなくすと自分でも開けなくなります。Emergency Kitを印刷するか、安全な場所に保存しておくことが大事です。
パスワードを送らずにログインする(SRP)
ふつうのWebサービスでは、ログインのときにパスワードをサーバーに送ります。1PasswordはSecure Remote Password(SRP)という方式を使っていて、パスワードをインターネットに流さずに本人確認をします。ホワイトペーパーでは、運営会社がアカウントパスワードや鍵を知る立場に一度もならないことを「Server ignorance」と表現しています。
1Passwordは、日本ではソースネクストからも「1Password 3年版」として販売されています。ソースネクストの製品ページでは、製品の機能はメーカー公式サイトで販売している1Passwordと同じで、使える端末の台数にも制限がないと説明されています。3年分をまとめて払うかどうかは、公式サイトの料金と比べて決めるのがよいと思います。
ふだん役に立つ機能
Watchtower
保存しているログイン情報の中から、流出が報告されたサービス、弱いパスワード、使い回しなどを知らせてくれる機能です。

流出したパスワードかどうかの確認では、パスワードから作ったハッシュ(40文字)のうち、最初の5文字だけを外部のサービス(haveibeenpwned.comのPwned Passwords)に送り、照合は端末の中で行います。パスワードそのものは、運営会社にも外部のサービスにも送られません。
使ってみた感想は1Password 8を使った感想に書いています。
パスキーと二段階認証のコード
1Passwordにはパスキーを保存して、ブラウザでそのままログインに使えます。パスキーに切り替えられるサイトは、Watchtowerから探せます。
二段階認証の6桁のコード(ワンタイムパスワード)も、ログイン情報と一緒に保存できます。サイト側で二段階認証を設定するときに出るQRコードを1Passwordで読み取る流れです。
銀行や会計ソフトのように、二段階認証をスマホの別アプリやSMSに分けておきたいアカウントもあると思います。どこまで1Passwordにまとめるかは、自分で決めておくと迷いません。
AIエージェントにパスワードを渡さずにログインさせる(2026年10月発表)
1Passwordは2026年10月22日に「1Password for Agents」を発表しました。AIエージェントがログイン画面に来ると1Passwordに使いたいログイン情報を伝え、利用者が自分の端末で承認すると、1Passwordが直接入力する仕組みです。公式の説明では、パスワードはエージェントに渡されません。
発表時点では、1Password.comの個人向け・ファミリーのアカウントで追加料金なしで使え、対応するエージェントは連携先ごとに順次広がるとされています。AIに経理や事務の作業を任せ始めた方は、ログイン情報をチャットに貼りつける前に、こうした仕組みがあることを知っておくと安心です。
個人・ファミリー・ビジネスの違い
| プラン | 向いている使い方 | 公式で案内されている主な特徴 |
|---|---|---|
| 個人向け | 社長一人で使う | パスワードの生成・自動入力、Watchtowerの警告、全端末での利用 |
| ファミリー | 家族の分もまとめる | 最大5人まで。それぞれが自分のアカウントパスワードを持ち、管理者が家族のアカウント復旧を手伝える |
| ビジネス | 社員や外注先と共有する | 保管庫ごとの細かい権限設定、監査ログ、グループごとの役割分担、組織全体のセキュリティレポート |
一人会社で社員がいなければ、個人向けで足りることが多いと思います。経理を家族に手伝ってもらうならファミリー、外注先とログイン情報を共有するならビジネスが候補です。料金は為替や改定で変わるので、申し込む前に公式の料金ページで確かめてください。料金が上がったときに見直す順番は1Passwordのサブスク代が高くなったときの確認順にまとめています。
経費にするなら
事業で使う1Passwordの利用料は、通信費や支払手数料で処理するのが一般的です。毎年同じ科目で続けることが大切です。領収書の確認場所と仕訳は、1Passwordの領収書の確認方法と仕訳に詳しく書いています。
まとめ
1Passwordは、データを端末で暗号化し、アカウントパスワードとSecret Keyの2つがそろわないと開けない作りになっています。運営会社にも中身が見えないので、銀行や会計ソフトのログインもまとめて預けやすい仕組みです。
セキュリティに時間をかけられないなら、よく使う銀行・メール・会計ソフトの3つを登録して、Watchtowerの警告を一つずつ片づけるだけでも守りは一段上がります。
ソースネクストの3年版を見てみるなら、こちらから確認できます。1password
参考にした情報
- 1Password Security Design(ホワイトペーパー、PDF・2024年12月版)
- 1Password Support:About the 1Password security model
- 1Password Support:About your Secret Key
- 1Password Support:Use Watchtower to find account details you need to change
- 1Password Support:About Watchtower privacy in 1Password
- 1Password Support:Save and sign in with passkeys in your browser
- 1Password Support:Use 1Password as an authenticator for sites with two-factor authentication
- 1Password Support:1Password Families
- 1Password Support:About 1Password Business
- 1Password Blog:Introducing 1Password for Agents(2026年10月22日)
- IPA:中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン

